「坂城の100人」 第37回目は、先日ご紹介した江戸、天明期の有名な狂歌師、船海堂潮来(前澤茂左衛門)です。 天明(1781~1789)狂歌と言われた狂歌全盛期の狂歌師。
船海堂潮来(ちょうらい)は坂木、横町の生まれで家は代々茂左衛門を襲名した旅籠です。(村名主も務めた家です。)
以下、潮来の狂歌を5句ご紹介します。 (「ふるさと探訪」より。解説は塚田睦樹先生によるものです。)
塚田睦樹先生の解説と共に読むと狂歌というイメージではなく深い哲学的な叙情を感じます。
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「老人」
頭にハ雪をつミてし老(おひ)が身は杖をつかねバあぶなかりけり
(頭に雪のような髪を積んでしまった老いの身は、雪の積む道は杖をつかなければあぶないな。老人の白髪を「雪の積む」の比喩が妙。)
「苗代」
糸ほどな水せきいれて小山田にいのちをつなぐ種も蒔たり
(糸ほどのか細い水を堰きとめて引いた小さな山田に、籾の種も蒔いた。これでかろうじて命がつなげる。山間の小さな田に暮らしをかける貧農の思い。 水・せき・田・種などの縁語が適切。)
「擣衣(きぬをうつ)」
背なかにハ子をおひながらひとりして子持縞(こもちじま)をもうてる衣(きぬ)うち
(背中には子を負いながら独りで子持縞をうっている衣うちの女がいる。その姿があたかも子持縞だと見立てた連想が面白い。)
「山霞」
染草の出るてふ山の白妙もついぞやすくかかすむむらさき
(染の原料の染草が生えているという山の白妙も、そんなにたやすく紫に霞むのだろうか。話を聞いただけで、そのように見えるのは人の心の面白さ。)
「神楽」(かぐら)
寒けさにみな音のたへし虫の名の鈴のミぞきく霜のよかぐら
(秋が深みすべての虫の音の絶えてしまった霜夜に、神楽の鈴の音だけが聞ゆる。霜夜の寒さと心にしみる鈴の音に更けゆく晩秋の夜の叙情を詠む。鈴虫の名の鈴だけを取り出したのが妙。)
次回以降、同時期の坂木の狂歌師、北国同雪高(荒井得三郎)、扇池亭雪高(縁阿弥萬誉上人)を順次、ご紹介します。
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坂城町長 山村ひろし