第12回トポス会議

昨日(5月31日)、六本木ヒルズで、第12回トポス会議が開催されました。

今回のテーマは、「社会への満足度と幸福度を高める ”オルタナティブ創造社会への挑戦」 です。

世界各地からこの分野の最先端の知見と実践知を持たれるそうそうたる方々の議論は行政にとっても大変有意義なものと感じました。

以下、共同発起人の野中郁次郎先生と紺野登先生のメッセージを掲載します。

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野中郁次郎 トポス会議代表発起人 一橋大学名誉教授

二項対立から二項動態へ

 今回のトボス会議は「オルタナティブ創造社会への挑戦」をテーマとして掲げた。通常、オルタナティブは「二者択ーの」「代替の」などと訳される。企業経営、組織運営において日々直面するさまざまな矛盾、「アナログとデジタル」、「アートとサイエンス」、「安定と変化」、「人間とAl」などは、「あれか、これか(either/or)」で論じられることが多い。しかし、一見相反しているかに見える二つの概念を二項対立(dualism)としてとらえるのではなく、それを乗り越える思考の実践が重要だ。一見矛盾する考え方や手法、要素は相互補完関係にあり、二つの要素が一つの事象に共存しうる。これらを状況や自的に合うようにうまく組み合わせ両方の利点を生かし新しい価値を見出す創造的思考が重要である。

このいわば「二項動態(dynamic duality)的思考」の実践には、矛盾する要素間の関係性における本質に対する深い洞察が必要だ。現実をデジタル的に白か黒かで見るのではなく、アナログ的に白と黒の両極の連続的なグラデーションとして捉え、両極を総合する勘どころを洞察するのである。また、変化する状況や文脈に合わせて、二つの要素の「動的均衡」を探り続けることが重要である。そして、闘争を通じて他項を排除する「死」の弁証法ではなく、対話を通じて中庸を探っていく「生」の思考でなければならない。

対立項が競い合いつつも両立し、個を貫きつつ全体の調和をダイナミックに追及する「あれもこれも(both/and)」の二項動態的思考が、危機に対峙する社会、そして我々一人ひとりの生き方に求められるのではないか。

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紺野 登 多摩川大学大学院教授

「オルタナティブ」とは、伝統や確立された制度や思想に対する選択肢、代替の道のことである。「トポス会議」ではこれまで何回かオルタナティブなテーマをとりあげている。「シンギュラリティ」つまり知性のオルタナティブ。ポスト資本主義など経済のオルタナテイプ、「エイジング2.0」あるいはヒューマン・エンハンスメント(人間拡張)すなわちオルタナティブな人間。生圏倫理学(エコエチカ)、脱・一極集中、グローバルシティ、「リビング・ラボ」などオルタナティブな環境や都市のあり方である(「過去のトポス会議」より)。しかし、この数年の大きな世界情勢変化の中で、オルタナティブに正面から向かい合う要請が生まれてきたように思われる。

フランスの経済学者トマ ピケティの「2 1 世紀の資本」 (2013)は、資本主義の格差拡大論争を世界中に巻き起こした。そこで、ピケティは社会主義者か、といった問いが少なかからずあったようだが、彼は資本主義が生み出す格差を問題にしたにすぎなかった。資本主義対社会主義、などというが、社会主義であっても格差は存在する。実は、両者は本質的に対立した概念ではなく、市場主導か国家主導の貢本主義かの違いでしかない。ところがこれらが対立概念や選択肢として捉えられて論争が起きる。しかしそこから答えはでてこない。その時これらのいずれでもない道を探ろうとするのが「オルタナティブ」だといえる。

市場が支配するのでも国家が支配するのでもない、とすれば、その一つのオルタナティブは人間や環境主導の資本主義であろう。1970年代頃から生まれた「エコロジー運動」は、これらの対立軸にこだわらない、人間と自然環境との共生や直接民主主義を主張した。西ドイツ(当時)の「緑の党」運動は、それが政治的な活動に繋がったものだ。SNSの広がりやブロックチェーンなどの技術は次の社会・経済システムを暗示しているようにも見える。

しかし、一方でこれまでオルタナティブはサブカルチャーと同義の「いかがわしさ」をまとっていた存在だった。オルタナティブ・ファッション、カルチャー、音楽(ロック)などは、時代の流れや商業主義にとらわれない前衛やアンダーグラウンドな文化を代表していた。他方、オルタナティブな教育、民間療法などを含む代替医療は、現在の制度やシステムを補完したり、共存を目指したりすものだった。いすれにせよ、それらは「中心」に対しての「周縁」に位図し、常に中心に向かって、刺激や圧力を与える存在だった。あるいは、代替エネルギーや代替技術、代替労働(多様な働き方)のように、従来の社会システムを根底から変化させつつ「持続可能性」を追求しようとする「外野」がオルタナテイプの真骨頂だった。

ところが、ここ数年の政治的・経済的・技術的な世界情勢の変化は、我々に本質的な解決や社会的イノペーションを、こうしたオルタナティブな道に求めさせるようになったといえる。それはこれまでの「オフィシャルな」未来に対する完全なアンチテーゼである。背景には政治や企業への信頼の低下現象がある。また、人工知能の台頭によって、知性そのもののオルタナティブなあり方を議論せざるをえないようになった。科学もその存在を問われるようになった。従来とは異なる思考の枠組みでの実践、価値観の逆転が起きている。月並みな表現だが「パラダイム・シフト」が現実化しているのである。もちろん、ただ一つのオルタナティブなど存在しない。多様なオルタナティブのパージョンがありえるだろう。

今回のトポス会議では、次の3つの切り口からオルタナティブを議論する。

 (1)オルタナティブな社会とはどんな社会だろう。ドイツの社会学者、ニクラス・ルーマンは、現代社会が階層的な構造ではなく、人々のコミュニケーションによって多層的なシステム群として形成されるという社会のモデルを提示して見せた。これは閉塞した既存の社会に対しての変革実践のための知見ともいえる。このモデルの類推から、社会におけるオルタナティブなあり方の具現化・実践には、個々の社会システムを超えて繋げるような機能を持った社会経済セクターの存在が求められる。

ヘンリー・ミンツパーグの「プルーラル・セクター」は、こうした新たな役割を担う組織体のモデルとして意味深い。従来の一業界、一企業、一省庁の戦略や政策には限界が訪れている。そこで、産官学民の相互参画を介して、社会・経済の「リパランシング」を図るのがプルーラル・セクターの役割である。デンマークの「オルタナティブ党」は、エコロジー運動の末裔ともいえる、現在の経済・社会の代替の道の確立を目指しているオルタナティブなセクターと言える。そこではフューチャーセンターやリピングラポなどの都市の「場」における、社会的、参画的な対話的実践が重要になる。その主役は当然ながら従来のシステムの保護者ではない、女性や若者、あるいはダイパーシティの垣根のない社会だろう。

 (2)オルタナティブな道の実践とは、いかにあるべきか。オルタナティブなイノベーションの実践とは既存の常識や制度に立ち向かっての新たなカテゴリーの創出であり、時として常識に挑むような生き方でもある。それは単純な「破壊的イノベーション」などでもない。個人の哲学や、長期的にわたる真剣な持続的努力が背後で求められる。彼らは、共通善や真実を追求しようとする、社会や文化のアントレプレナーである。それは企業のイノベーション、オルタナティブな社会システムの創出など、異なった分野にも共通している。

 (3)オルタナティブな経済がありえるなら、企業経営やイノベーションのオルタナティブとはどのようにあるべきか。今や、本業も全てイノベーションを軸にした経営の時代に入っている。既存の延長線にある経営の知には限界があると考える方が妥当だろう。既存の競争軸にはない、オルタナティブな戦略を考えねばならない。しかしそれはアイデンティティの喪失につながるかもしれない。逆に現在忘れられた伝統的な知の意味合いが高まるかもしれない。その場合、いすれにせよその最初の問いは、「一体自分たちは何のために存在しているのか」であろう。

多摩大学大学院教授

一般社団法人Japan Innovation Network代表理事

KIRO株式会社(Knowledge Innovation Research Office)代表

知的経営変革、ナレッジマネジメント、知識、産業における事業開発、デザイン経営戦略やリーダーシッブ・ブログラム、研究所などのワークプレイス戟略等実務に即した知識経営研究と実践を行う。

            

 

▼左:野中郁次郎先生と 右:Women Help Women 代表で女性による企業促進や、ソーシャル・ビジネスの普及に取り組まれている、西田治子さん。今回も素晴らしいお話をしていただきました。(西田さんには坂城町での講演会のお願いもしております。)

以下、トポス会議のプログラム、講演者について。

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第12回トポス会議

社会への満足度と幸福度を高める
オルタナティブ創造社会への挑戦

一般社団法人Future Center Alliance Japan(FCAJ)が実施した調査の結果では、「日本の社会に満足していない」と回答した人が何と76%に上り、逆に「満足している」という人は1.7%足らずであった。

こうした「社会への不満足度」の高まりは、アラブの春、オキュパイ・ウォールストリート、最近ではブレグジットや#MeTooなどの大衆運動として噴出するだけではない。最近では、現状を修正・改善・変革する「オルタナティブ」となって表れることが少なくない。それらは、概して自生的であり、「時代の要請」と呼ぶべきものである。

ビル・ゲイツが「既存の銀行は不要になる」と予言したように、ビットコインやブロックチェーンはまさしく世界的なオルタナティブである。このほか、政治、教育、医療、福祉、エネルギーなどの社会システムにおいて、多種多様なオルタナティブが登場している。一見、デジタル技術によって制約や限界から解放された結果のように見えるが、既存のシステムや手段への「異議申し立て」と理解すべきではないか。

オルタナティブとは、通常「既存とは異なる代替」を意味し、これまでは「アンチ」「ポスト」「少数派」などと表現されることが多かった。しかし現在では、敵対・対立でも脱でもなく、むしろ相互に影響を及ぼしながら修正や進化を促す「推進力」といえる。

その方向性はすでに示されている。事実、いま生まれつつあるオルタナティブの多くが、経済的繁栄よりも、民主的で共生的な社会やコミュニティを目指すものであり、それゆえにイノベーティブである。

オルタナティブが増えるほど、変革や進歩が加速され、同時に多様性や寛容性が高まる――。

これが、第12回トポス会議が投げかける「仮説」である。今回は、代表発起人の野中郁次郎、神戸大学名誉教授の加護野忠男氏、そしてマギル大学のヘンリー・ミンツバーグ氏の3人の賢慮によるクロストークを起点に、オルタナティブが大量に創造される社会のダイナミズムについて議論する。

プログラム

                     

講演者

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坂城町長 山村ひろし

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