キャノングローバル戦略研究所の瀬口清之さんから最新のレポートをいただきました。
主な論点のみ掲載します。
瀬口さんは中国問題の日本における第一人者ですが、外交面からの日米中問題に大きく関わっておられます。今、日本国民が考えなければならないのは 「いま自分に何ができるか」 ということのようです。
坂城町長 山村ひろし
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各位
5月23日から6月3日まで米国に出張し、サンフランシスコ、サンディエゴ、ニューヨーク、ワシントンDC、ボストンの5都市を訪問し、外交専門家、国際政治学者、米国経済専門家等と面談を行いました。
今回のテーマは2つ。
1つは震災後の日米関係の変化、 もう一つは最近の米中関係でした。
震災後の日本に対する見方については、4月下旬に中国を訪問した際に中国側の見方を聞く機会がありましたが、震災直後の日本人の対応に対する極めて高い評価、日本企業のジャパンブランドは傷ついていないこと、一方、政府および東京電力に対する厳しい評価は米中ともほぼ一致していました。
この点は日本人として誇りに思える嬉しい評価でした。
しかし、今回の米国出張ではそれとは正反対に、日本の存在感の低下を深刻に思い知らされる出来事がありました。
つい最近の米中間の協議に絡んで日本が全く話題に上らなかったのです。
確かに現在の日本の政治状況では、総理の強いリーダーの下で日本が見事に復興を遂げるといった明るいビジョンが描きにくいのは事実です。
また、民主党は日本をどんな国にするのかという国家ビジョンを示していません。
しかし、その一方で、震災後、多くの日本人が「いま自分に何ができるか」という問いかけをするようになったのも事実だと思います。
震災以前、日本人の多くは政府の指示や命令を待つ受け身の姿勢が目立っていました。震災後は多くの日本人の心持ちが大きく変化したように感じているのは私だけではないと思います。
この日本人の心持ちの変化を土台にして日本をもう一度世界の一流国に復活させることを目指したいと強く感じました。
「いま自分に何ができるか」
この主体的かつ実践的な発想から日本の復活が始まることを信じたいと思います。
震災後に新たに生まれ変わろうとしている日本を前提として新たな日本の国家ビジョン、外交方針、重点施策を示すことが求められています。
それが今後の日米関係、日中関係、そして世界の中の日本の姿を創造していく出発点になると思います。
今回の出張報告に対するご意見、アドバイス等をお待ちしております。
瀬口清之拝
キヤノングローバル戦略研究所
<主なポイント>
◇ 震災後の日本人の対応について、我慢強さ、モラルの高さ、思いやり、治安の良さ等が称賛されている。今回の震災後の日本に対する米国人の同情や心配する気持ちは過去に例のないほど強く、そして長続きしている。
◇ 日本での原子力政策の失敗は米国の原子力政策への影響も大きい。このため米国のエネルギー政策関係者等を中心に、日本が福島原発の問題に対してきちんと対応し、必要以上に米国一般市民の不安感を駆り立てないようにすることを期待している。
◇ 日本政府と東京電力に対する評価は非常に厳しいが、その他の日本企業への評価は依然高いままであり、ジャパンブランドは傷ついていない。むしろサプライチェーンの早期回復などにみられた日本企業の危機対応能力の高さが改めて世界中に認識され、日本企業の評価が高まっている。
◇ 米国有力金融機関のチーフエコノミストは巨額の累積財政赤字を抱える日本政府のファイナンスそのものが大丈夫なのかとの懸念が強い点で一致している。
◇ 米軍が自衛隊と共に震災直後の被災者救援活動で多大なる成果を挙げ、高く評価された。これは日米関係改善にとっても大きな意義のある成果だった。しかし、日米両国の内政事情等から、この成功を土台として、今後さらなる日米関係の発展に向けた大きな.組みの構築へと踏み出すまでにはある程度時間を要すると見られている。
◇ 米中関係は昨年9月をボトムに明確に改善してきている。2009年11月以降、様々な出来事を背景に、米中関係は悪化の一途を辿った。しかし、その後、米国からの関係改善に向けての働き掛けを受けて、米中双方が歩み寄る形での改善が進んでいる。
◇ 今回の米中戦略経済対話において、米国は米中関係改善のさらなる進展を重視し、中国が突っ込まれたくないテーマに関する議論を意図的に避けた。その結果、戦略安全保障対話とアジア太平洋協議という2つのプロジェクトのスタートが合意された。
◇ 今回、米中アジア太平洋協議に絡んで米国政府は日本に一言も言及しなかった。これは「日本がどんな国を目指し、どのような外交方針を掲げ、具体的に何をしたいのかが見えない」ことが原因であると見られている。日本はこの状況を深刻に受け止め、早期打開に向けて努力することが必要である。
◇ 足許は米中関係の改善が進んでいるが、今後米中関係が一本調子で改善し続けることはありえない。米中間での競争と協力とが混在した関係が続くと考えられている。
以上。