瀬口清之さんのメッセージ(安倍長期政権下における3つの提案)

キャノングローバル研究所研究主管の瀬口清之さんから、いつもの中国、米国経済の問題とは違い、安倍政権に関するテーマのメッセージをいただきました。

以下、転載させていただきます。

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2016.09.28

世界で静かに見直されている日本的経営

~久しぶりの長期政権の今こそ、リーダーシップを発揮すべき時~

 

安倍政権の長期政権としての優位性

 

 1990年代以降、日本の首相在任期間が1000日を超えたのは小泉純一郎政権と安倍晋三政権だけである。

 米国大統領の在任期間は8年(2900日以上)、中国の共産党総書記は10年(3600日以上)というケースが多いのに比べると、日本の首相在任期間の多くはその3分の1以下という短さである。

 このように短期政権が多い中にあって、安倍政権は久しぶりの長期政権である。もし自民党総裁任期が3期9年となれば、米中両国のトップの任期と肩を並べることになる。

 これは日本にとって数少ないチャンスであり、長期的な視点から国家戦略を見直し、対外政策の基本方針を打ち立て、それを実践に移す好機である。短命政権にはそれを考える余裕もなければ、実践に移すチャンスもない。

 久しぶりの長期政権となっている安倍首相は外交にも積極的で、日米関係においてはすでに初の上下両院合同会議での演説、「新たな日米防衛協力のための指針」の了承など数々の歴史的成果を達成している。

 この好機を捉え、今後のグローバル社会を展望し、日本の中長期対外政策上の3つの新たなチャレンジについて考えてみたい。

日本の中長期対外政策試論

(1)日米同盟と日中韓3国協調

 日本の対外政策を考えるうえで最も重要な前提条件は日米同盟の長期安定的な継続である。この前提が崩れると、戦後日本が構築してきた平和的な安全保障政策が成り立たなくなる。

 この間、世界情勢、米国の国内情勢は着実に変化してきており、今後も変化し続けていく。そうした状況下で、日本が旧態依然のスタンスで米国従属型のステータスを続けようとすれば、米国にとって日米同盟の価値が低下するのは確実である。

 実際、冷戦下の1990年以前と冷戦後の1990年代以降を比較すれば、日米同盟における日本の役割は着実に高まっており、大きな変化を遂げている。

 今後、グローバル化が一段と進展し、アジア域内経済圏が緊密化し、中国や北朝鮮の政治状況が変化していくことを展望すると、日米同盟の中身はこれまで以上に大きく変容していくと考えられる。

 安全保障面における日本の貢献度をさらに高め、より自律的にアジア地域の平和維持に貢献すると同時に、日米両国を中心に韓国、豪州、フィリピンなどの関係国との連携を強め、総合的な平和維持能力を向上し続ける努力がますます重要になってくる。

 その一方で、日中韓3国を中核とするアジア域内の経済連携の緊密化が着実に進んでいくと考えられる。

 日中韓3国をコアとするアジア太平洋経済圏の協調型経済発展は、欧米諸国、中東・アフリカ地域を含めてグローバル経済の安定化に寄与し、世界経済の持続的安定的発展をリードする役割の重要性がますます高まる。

 これにより安全保障上の摩擦発生リスクを軽減できる場合には、日米同盟の具体的な協力の中身においても経済政策の重要度が相対的に増すと考えられる。

 平和憲法の規定により安全保障政策上の制約がある日本にとって、そうした環境変化は、日米同盟における日本の貢献度を相対的に押し上げることになる。

 これが日米同盟において日本の価値をさらに高め、日米同盟をより強固なものとするのであれば、日本としてそうした方向に向かわせる努力が重要である。

 すなわち、日中韓3国を中核とするアジア太平洋域内の経済連携を強化するうえで、日本がより積極的なリーダーシップをとることが、日米同盟の強化・安定の土台となる。

 そのための具体策を考えると、1つの可能性として、中国が推進する一帯一路構想に日韓両国が積極的に協力することにより、アジア域内、さらには欧州・ロシアとの連携強化に貢献するというアイデアが考えられる。

 日本1国では人口、経済規模から見て、ユーラシア全域、あるいはグローバル経済をリードすることは難しいが、日中韓3国が連携すれば、現実味を帯びる。

 また、中国1国主導型で一帯一路構想を推進する場合には、中国にのみ込まれる脅威を感じる国が多いはずであるが、日中韓3国の共同プロジェクトになればそこに参加する安心感は確実に高まる。これは中国自身にとっても大きなメリットとなる。

(2)テロとの戦い

 現在、世界が直面する安全保障上の最重要課題はテロとの戦いである。この問題に対して欧米諸国は武力による制圧を繰り返してきているが、1990年代以降の推移を見る限り、その方法が有効に機能しているとは言えない。

 その理由は、テロリズムの温床となる貧困と国家のガバナンスの欠如という2つの条件が改善されていないことにあるとテロの専門家は指摘する。

 この間、アジア諸国の情勢を振り返ってみると、貧困と国家のガバナンスの欠如という意味で、カンボジア、ミャンマーなどテロ組織が生まれる温床となる可能性の高い地域がかつていくつか存在していた。

 しかし、これらの地域に対して、アジアの周辺国は武力による制圧を試みず、時間の経過とともに内部から変容してくるのを待った。その間、周辺国は確実に経済発展を享受し、平和の配当を目に見える形にしてきた。

 そうした経済発展基盤の持続的形成を前提とする穏健な安全保障政策が、結果的にアジア地域全体の貧困を削減し、経済基盤の安定化を支えに国家のガバナンスの強化を促進し、長期的にテロリズムの温床となることを防いでいくことにつながった。

 このアジアの長期的な経済発展をリードしたのは日本、韓国であり、圧倒的な経済力で一段と加速させたのは中国である。ASEAN(東南アジア諸国連合)、インドなどは今もその軌道上で順調な経済発展を遂げつつある。

 中東地域のテロリズムの拡大に対して、短期的には武力制圧の手段を用いざるを得ない場面があることは否定できない。

 しかし、それだけに頼るのではなく、それと並行して、アジア型の長期的な非武力制圧型対応によって、中東地域の自律的な経済発展基盤の形成を促進し、テロの温床そのものを縮小していく努力も重要である。

 そうしなければ、一時的に平和を回復したとしても人々が貧困に苦しみ、生活の糧を得るためにテロ組織に入ることを防ぐことができないからである。

 具体的には、電気・ガス・水道などの基礎的生活インフラ、病院、学校のような社会インフラ整備から着手し、労働集約型の初歩的な産業基盤の構築援助により自律的な経済基盤建設を支援する。

 そうした経済援助を長期的に継続し、中東地域の貧困を徐々に改善し、経済基盤の安定化を図り、国家のガバナンスを少しずつ強化していく。

 経済発展の促進に関しては経験豊富な日中韓3国が中心となって、米国、欧州諸国、アジア太平洋域内各国の支援も得ながら、中東地域において共同で貢献することを目指すべきである。

 特に日本は中東諸国との関係が良好であるため、日本がリードする形で日中韓3国と中東諸国との協力関係を構築していくことが現実的である。

 武力を用いずに世界の平和に大きく貢献ができることを日中韓3国の長期的な援助協力によって世界に示す意義は大きい。これは日中韓3国にとっても持続的な関係緊密化の土台となるはずである。

(3)日本企業の経営理念の共有化促進

 米国大統領選挙におけるドナルド・トランプ氏、バーニー・サンダース氏に対する支持の拡大、欧州におけるピケティ氏の著書・発言への共感の広がりはいずれも資本主義のもつ構造欠陥に対する不満が根底にある。

 それは貧富の格差を深刻化させる企業経営のあり方に根ざすものである。

 それが、こうした社会問題の解決への取り組みが不十分なエスタブリッシュメントへの反発の動きとなり、米国では反ワシントンDC、反ウォールストリート、欧州では反ブリュッセル、反ECBの動きとなって表面化している。

 一方、日本では反永田町・霞が関、反丸の内・大手町といったエスタブリッシュメントに対する反発の拡大は見られていない。これは、日本の政治家が欧米諸国の政治家に比べて格段に政策運営能力が高いことによるものとは考えにくい。

 それは、多くの日本企業の経営が欧米企業とは根本的に異なる理念に基づいて実践されていることに起因するのではないかと考えられる。

 多くの日本企業が最も重視する目標は短期的な株主利益の最大化ではなく、長期的な社会的信用の維持、従業員の雇用の安定的な確保、従業員が気持ちよく働ける労働環境の整備、地域社会への貢献などである。

 加えて、日本を代表する優良巨大企業でも会長、社長の年間給与はせいぜい2~3億円であり、東証一部上場企業の経営者でも年収1億円前後またはそれ以下の企業が非常に多い。これに対して、米国ではその10倍、20倍もの給与をとる経営者が目立つ。

 役員報酬もそれに準じて抑えられている。その分、従業員の長期安定的な雇用の確保、法人税納付などを通じて企業の利益を社会に還元している。

 これまでこうした日本企業の経営理念、企業文化は日本の中では当たり前のものと受け止められていたが、世界では稀な存在であり、必ずしも高い評価を得てはいなかった。

 しかし、今や日本企業の経営理念とその実践は、欧米諸国が直面する貧富の格差の拡大等の社会問題に対する抜本的な解決策を提供できる可能性が高い。

 例えば、リーマンショック後の長期経済停滞の下で、多くの米国企業が大規模なレイオフを実施したが、トヨタ自動車が1人の従業員もレイオフしなかったことは米国でも高く評価されている。

 日本企業の経営者が強い自覚をもって日本型の経営理念を世界に発信し、世界中の企業と共有化を図ることで、世界各国の社会の安定化に貢献するべきである。

 しかし、今のところそうした行動を起こす日本の経営者、学者、政策などは見られていない。最近各国が直面する社会問題の深刻さを考えれば、今こそ日本がそうした行動を実践し、世界各国の社会の安定に貢献すべき時代的使命を負っていると自覚すべきではないだろうか。

 これは日本の企業文化の魅力を高め、グローバル社会において日本の強力なソフトパワーの根源となるはずだ。

 そうした問題意識に立って、日本政府が情報発信のプラットフォームを準備し、日本企業が世界に向けて日本企業の経営理念・企業文化を発信し、21世紀の世界の経営の範となる努力をすべきである。

 その過程で日本企業の経営理念・企業文化の長所にもより磨きがかかり、日本経済の発展に大きく寄与することも期待できる。

 以上のような3つのアイデアを安倍政権下だからこそ考えられる中長期対外政策のアイデアとして検討することを提案したい。

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坂城町長 山村ひろし

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